靴を履いたパピー

7月20日前後の数日間、記録的な暑さが続いた。
車のダッシュボードの上に、2時間ほど置いた玉子は、
白身は少し柔らかかったが、黄身の方はしっかり固まっていて、
立派な茹で玉子になっていた。
少し迷ったが、腐っている様子も無いので口に入れてみた。
「うーん、うまい」
車の中で茹でた玉子がこんなに旨いとは、新しい発見だ。
これをコロンブスの卵と言う。
サンマは目黒に限る、玉子は車に限る、と言ったところだろうか。
でも、食中毒になるといけないので、真似はしないでほしい。

車の中に入れて置いた温度計が、
午前11時には、既に80度にもなっていた。
その温度は、午後3時くらいまで続き、
4時になってやっと65度にまで下がった。
数日前に、中村和子さんの盲導犬、パピーの足裏を見たら、
真っ赤に焼けていた。
日中でも歩かなければならない盲導犬にとって、
真夏のアスファルトの上を歩くのは危険。
なんとかしなければと、
ネットで探して注文してあった犬用の靴が、7月24日に届いた。
犬の靴なので4つで一足、代金着払いで6050円也。

直ぐに中村さんの家に行って、パピーに靴を履かせてみた。
「パピー、ダウン」と言って、伏せの姿勢をさせてから履かせたが、
盲導犬だって靴を履くのは抵抗があるらしく、足を引っ込めてしまう。
それでも、なだめながら、どうにか履かせる事が・・・できた。
さて、靴を履いたパピーと歩いてみたが、
バタッ、バタッ、バタッ、バタッと言う感じで、体を低くしたその姿は、
まるでオットセイが歩いているようだ。
「こりゃー駄目だ」
と思っていると、右前足の靴がスポッと脱げてしまう。
「うーん、無理かな」と思いながらもう一度、
今度は脱げないように、足首側のテープをしっかりしっかり巻いてみる。
「あんた、なんてーひどい事をするんだ」
とパピーは思っているに違いない。
そんな感じの目で私を見た。
地面を焼く日差しと照り返しで、パピーの体は熱気の中に包まれていた。

「パピー、ゴー」・・・再び歩き出す。
またオットセイかなと思っていたら、
なんと、今度は何事も無かったように歩き出した。
ふつーの犬は、靴に慣れるまでに時間がかかるらしいが、
さすがパピーは優秀な盲導犬、直ぐに歩けるようになってしまった。
今度はしっかり留めたせいか、靴が脱げるような事も無い。

「中村さーん、今度は良さそうだよー」
ハーネスを着けて、近くの神社の周りを1周してもらう。
パピーは恨めしそうにチラチラと私を見た。
傍目には軽快に歩き出したものの、
何時もパピーと一緒に歩いている中村さんには、
ハーネスから伝わってくる感じが違うようだ。
「ほら、足音が違うでしょ、よく聴いて見て」
なんて言いながら不安そう。
「靴を履いてんだから、そりゃー足音は違うよ」と思っている私。
それでも、歩いている内に感じがつかめて来たのでしょう、
中村さんの顔が段々明るくなってきた。

「いいねいいね」「大丈夫かな」「うん、これなら大丈夫」ともう1周。
歩くたびに、パピーのテンポは軽快になってくる。
「これでしばらく様子をみましょうか」
初めてにしては上々の結果に安堵しながらも、
歩きづらいだろうなーと、パピーに申し訳ない気持ちで帰って来た。
それから数日後、靴を履いたパピーが、中村さんをしっかり守りながら、
焼けたアスファルトの道を歩いているのを見た。
 
                                                                
お手紙拝借しました。